僕らが大人になる理由
無関心のナイフ
紺君はヒーローだ。
話し方はロボットみたいに冷たいけど、ちゃんと目を見て話してくれる。
仕事でミスをするとすごく怒るけど、できなかったことを後でちゃんと教えてくれる。
ノリ悪いしプライベートは中々見せないけど、いざという時に現れて、あっと言う間に問題を解決してくれる。
紺君はヒーローだ。
たとえ紺君にとってのヒロインはあたしじゃなくても。
こんなにやさしい気持ちをくれた紺君に、あたしも何かしてあげたい。
「と、いうわけで。真冬考えちゃいました」
「真冬ちゃん…これは何かな?」
「シフトいれてみました」
「ええっと…真冬ちゃん休み一日もなくない?」
「紺君に1日休みをプレゼントしたいんです!」
月日は流れ、もうすぐ6月に入ろうとした頃。
閉店後、店長と二人きりの時に、シフト表を提出した。
色々考えた結果、紺君の欲しいものが思い浮かばなかったので、あたしがいっぱい働いて紺君に休日をプレゼントするのが一番なのでは、という考えに至った。
しかし、やる気満々のあたしとは反対に、店長は顔をしかめたままだ。
「おじさんも真冬ちゃんの紺ちゃんへのラブっぷりはよ~く分かってるよ?」
「はいっ、結婚します!」
「でもね、紺野いないと困るんだわ。キッチンの人ただでさえ少ないし…」
「はっ、そうか!」
「ごめんね? 確かに紺野は働き過ぎだとは思ってるんだけどね~」
うーん、と唸って眉を八の字にする店長。
そうか。現実的に考えて副店長である紺野君が休むってことは、大変なことなんだ。
じゃあほかにあたしができることって、あるのかな。