僕らが大人になる理由

「諦めるって一応言いましたけどね、それで俺が諦めるわけないじゃないっすかー」

「いいよお前には言ってない。かまかけて表情かたまらせた時点でアウトなんだよ二人とも。てかお前はめんどくさいから黙ってろバカ」

「うわ、かっちーん。どこ大だこらー」

「澪条大法学部だこら」

「ハイスイマセンしたーーーー」


光流君が疑ってるのは明らかだった。

わたしができるのはただひとつ。か弱い子ぶるのみ。

ここで開き直ったり、光流君の浮気癖(このことは柊人君からよく聞いていた)を指摘して煽ったりしたら、また言いくるめられて墓穴を掘っていくに決まってる。


…否定も肯定もせずにただ脅えていよう。


「…このこと、紺ちゃんに言うよ？ いいよね」

「………」

「悪いけど俺は優しくないからね？」

「………」

「黙ってんのは全部肯定とするよ？」

「！」


…もし、柊人君にバレたら。

いやだ。それだけは嫌だ。


「…このこと、柊人君は知ってます…」


――咄嗟に出た嘘だった。


「え」


明らかに困惑している光流君を見て、いけると思った。


「わたしたちの付き合い方、少し異常だって、思ってたでしょう？」

「………」

「それはこういうことです。お互い愛し合ってるけど、縛り付けたくないから、こういう付き合い方をしてます。飽きたらこうして遊んで、柊人君の元に帰る。長く付き合うコツだと思ってます」

「……じゃあなんで、さっきあんなに動揺してたの？」

「めんどくさいことになると思ったから。事情を分かってない人には、ただの浮気なわけだし…」

「………」

「でもわたしは柊人君が好きだし、柊人君はわたしが好きです。それでいいじゃないですか。何か問題、ありますか？ 飽きるのが怖い、刺激がほしい、この気持ち、光流君なら十分わかりますよね？」

「！」

「わたしたちのバランスとれた関係を崩すのは、やめてください。世間の“ふつう”という感覚を押し付けないでください。そっとしといてください…わたしだって歪んでることくらいわかてますっ…うっ」


わたしは、泣きまねをして顔を手で覆った。

内心、ばれるかどうかハラハラしてた。

けれど、光流君はさっきのような静かな怒りを見せる様子はなく、何か納得した様な表情をしていた。