僕らが大人になる理由
居場所
「こ、紺君と、買い…出し…っ」
「真冬と行く意味ありますか? ないですよね? てかないです一人で行きます」
「まあまあまあ、柊人くん、座って」
とある平日の昼間。
今日はお店は休みだったのだけれど、店長が発注ミスで買えなかったものがあるらしく、1階に呼び出された。
もちろん紺君も完全にオフモードで、髪は寝癖がついてるし、ジャージ姿でチャックを口元まで上げたままムスッとしている。
「今日は何の日か覚えてる?」
「え?」
紺君は怪訝そうに眉を顰めた。
「真冬ちゃんの誕生日だよっ」
「えっ」
声を上げたのはあたしだった。
まさか覚えていてくれたなんて思いもしなかったから。
けれど、低血圧で朝に弱い紺君は相変わらず苛立っているようで「で?」と言っただけだった。
あたしはひっそりと傷ついた。
「だから、これは店長から真冬ちゃんへの誕生日プレゼントってわけよ。ドゥーユーアンダースタン?」
「ちっ」
「ねぇ朝すこぶる機嫌悪いのやめて怖いから。38歳をビビらせないでお願い」
「真冬、行きますよ」
「えっ! せ、せめて着替えさせてくださいお願いします」
「ちっ」
「お願いしますうう」
あたしは半泣き状態で階段をかけのぼり速攻でワンピースに着替えた。
お気に入りの薄い水色のワンピース。
紺君もさすがにジャージだけは着替えて黒Tシャツ姿になっていた。下はバスパンのままだったけれど。
ああ、店長ありがとうございます!
こんなに嬉しい誕生日プレゼントは初めてかもしれないです!
そう胸の中で呟きながら、あたしは紺君と一緒に店を出た。