僕らが大人になる理由
「こ、紺君とデートなんて…」
「デートじゃないですからね、業務です業務」
「て、手繋いでもいいですか…?」
「図々し過ぎませんか」
「嘘ですごめんなさい隣歩いてもいいですか」
「…50メートル空けるならよし」
「つまり道路の向こう側行けってことですね」
そんなことを言いながらも、あたしは無理矢理紺君の隣を歩いた。
紺君とこんな風にどこかに出かけるなんて、初めてだ。
あたしは浮かれに浮かれまくっていた。
「そういえば、何の買い出しなんですか?」
「主にお酒ですね。いつもお世話になってるお店があるので、守葉駅まで向かいます」
「えっ」
「どうしましたか?」
「あ、いやなんでも…ないです」
守葉駅はあたしの親の会社――桜野社がある駅だ。
会うことは絶対ないだろうけど…。
紺君はやっと眠気もさめたのか、いつもの紺君に戻っていた(この間機嫌が悪かったのも単なる睡眠不足らしい)。
紺君は暫し不思議そうにあたしを見つめていたけれど、そのまま電車に乗り守葉駅に着いた。
守葉駅は出版社が集う都会で、下町っぽい史川駅(最寄駅)とは雰囲気ががらりと違う。
見上げると首が痛くなるようなビルが建ち並んでいて、なんだかビジネスのにおいがすごくて、あたしはあまりこの駅が好きじゃない。
下を向いて歩いていると、紺君がぐっと腕を掴んだ。
「わっ」
「行きますよ。早く終わらせましょう」
「あ、はい」
「…早く終わらせて、史川駅でご飯を食べましょう、もちろんこの店長の金で」
「うは、いいんですかそれっ」
あたしが笑うと、紺君はやっと安心できたかのように口角を少しだけあげた。
紺君を心配させてしまったと気づいたあたしは、少し反省した。