僕らが大人になる理由
それから徒歩で酒屋に向かい、なかなか手に入らない地酒を4本購入した。
真夏の炎天下の中、ビルで狭くなった青い空を見ると、目がくらくらした。
紺君が酒を三本持ってくれたから、あたしは一本で全然重くはないんだけど、それでも少し辛かった。
しかし、紺君は全く汗をかいていなくて、しれっとしていた。
瞳はいつも通り涼しげで、透明感のある肌は触れてもサラサラと気持ちよさそう。その時やっぱりこの人はロボットなんだと確信した。
…あと10分ほど歩けば守葉駅に着く。
そう息を切らしていると、紺君が珍しく話しかけてきた。
「そういえば、真冬は名前に反して真夏うまれなんですね」
「あー、それよく言われます」
「どうして真冬って名前になったんですか?」
あたしはその瞬間、表情を強張らせた。
紺君はそんなあたしの微妙な変化を、見逃すはずが無かった。
「んー…聞いたことないです」
けれどあたしはなんともないふりをして、その話題から逃げた。
折角紺君が気にかけてくれたことなのに。
でも、どうしてもその理由だけは話したくなかった。
「…真冬は、どうかはわからないですけど、俺は真冬って名前を聞いたとき、凄くかわいいって思いました」
「え」
「だから、真冬って呼びたいって、思いました」
「………」
「まあその名前のかわいさに名前負けしてるかどうかは別の話ですが」
「ひとこと余計ですっ」
「行きましょう」
「あっ」
紺君は静かに笑うと、あたしの手から酒瓶を一本奪ってすたすたと歩きだした。
すぐに返してもらおうと手を差し伸べたけど、振り払われた。
あたしは、その手を握って、何度もありがとうと言いたい気持ちで胸がいっぱいだった。