僕らが大人になる理由
…桜野真冬って名前は、お母さんがずっとつけたかった名前だと聞いた。
お母さんが敬愛している歌手の一番好きな曲が「真冬の唄」だったことが理由らしい。
あたしは幼いながらにその曲を何度も何度も何度も聴いて、母の愛をそこから感じていた。
『これ以上君が泣かないように
これから僕は昔話をするから
君は僕の手をただ強く握っていてよ
真冬の冷たいベンチに座って
もう一度子どもの頃に戻ろう
君は僕の手をただ強く握っていてよ
二人の未来が不安なら
二人の今をつくった道を辿ってみよう』
そんな歌詞の曲だった。詳しくは知らないけど、遠距離前で不安がる恋人におくった曲、という体らしい。
もちろん歌詞の深い意味など、幼いあたしが理解してる筈もなく、ただ聴いてるだけだったけれど。
でもこれが母の一番愛した曲なんだと思うと、この曲がとても大切に思えてきたんだ。
『少しずつ 少しずつ
許されないことが増えていくのが怖くて
子どもに戻りたいと思った
でも
悔しくて 悔しくて
そんな風に思う日が多くなって
はやく大人になりたいと思った
君を守れるような大人になりたいと思った
僕が大人になる理由は君だ』
今でもすぐに口ずさめるサビ部分。
頭の中に焼き付いている。
大切な曲だった。
…大切な曲だったんだ。あたしにとっては。