僕らが大人になる理由
「や、やっと着いた」
「なんでそんなに汗だくなんですか」
「紺君と違って人間なんで」
「どういう意味ですか」
「いたたたたごめんなさいごめんなさい」
一升瓶を脛に押し付けられた。とても痛い。
守葉駅周辺は相変わらず人通りが多く、駅前には何台ものタクシーが行き交っている。
紺君は『店長のお金でタクシーで帰りたい』とぼやいたが、さすがにそれはまずいので必死に止めた。
「真冬は変なとこ真面目ですね」
「紺君が不真面目すぎるんです」
「光流もこういうとこは真面目なんですよねえ…。あゆ姉なら往復でタクシー使うくらいなのに」
「あ、あゆ姉…」
確かに、あゆ姉と紺君は同じ属性な気がする…。わが道をゆく感じとか。
あたしはなんとか紺君をタクシー乗り場から離れさそうと腕をぐいぐい引っ張った。
…すると、そんなあたしの手を誰かが引っ張った。
「え…」
驚いて見上げると、そこには久しく会っていない兄がいた。
そういえば、兄の大学の最寄駅は守葉駅だ。
しまったと、思った。
「お前、何してんだこんなところで。しかも男と」
――185㎝でがたいの良い兄はとても威圧感があり、眼鏡の奥から覗く眼光は鋭かった。
冷徹な瞳であたしを見下ろす兄に、あたしは震えあがってしまった。
…感情が無い瞳だ。
まるで、人じゃなくてモノを見るような。
「あ、今はバイトの買い出しみたいなやつで…」
絞り出した声は、震えていた。
紺君は、何も言わず兄を見つめていた。