僕らが大人になる理由
「…ごめ」
「真冬」
紺君が、そっとあたしの口元の手を外した。
「……真冬、どうしました?」
「……ごめ」
「ん?」
紺君が、下からあたしの顔を覗き込んで、再度「ん?」とあたしの返事を促した。
「…君、妹とそういう関係なのか」
「…だったらどうだって言うんですか」
「最終学歴は?」
「中卒です」
「話にならんな」
「奇遇ですね。俺もそう思ってました。あなたと」
「………」
まずい。紺君、やめて。
そう思ったけど、兄の恐ろしい表情を見て、声が出なくなってしまった。
「暇だな。君たちは、本当に」
「っ」
兄が放った言葉が、胸に突き刺さった。
ああ、この人、やっぱりお母さんの子供だ。
言うことがそっくりだよ。
『暇ね、あなたは、本当に』
…お母さんの好きな歌を、覚えたかったから、日課のように聴いていた。そんなあたしの背中を見て、母が放った言葉。
お母さんにとってその歌は、「真冬の唄」は、いつしか暇つぶしにもならなくなってしまった。
まるで、CDごと捨てられたような気持だった。
あの日、そう言われて、あたしの中で何かが崩れ落ちた。