僕らが大人になる理由
「真冬、血駄目なんじゃないですか?」
「……」
「座って、俺の手を見ないで、目をつぶって、息吸って」
「うっ…」
「もう一回」
怪我をした紺君にどうしてあたしが介抱されてるんだ。
あたしは血を見ると貧血を起こしかけるくらい血が苦手だったが、どうにか紺君の手にハンカチを巻いた。
そして、紺君の血が完全に止まるまでホームの椅子に座り、止まったのを確認したらタクシーを拾って店まで戻った。
「うわー、派手にやったね」
店長はそれだけ言って、紺君の手を包帯でぐるぐる巻きにした。
紺君は自分の手を見つめて眉一つ動かさない。
あたしは、そんな二人を申し訳なくて見ていられなくてうつむいた。
カウンター席に座っている二人を、お座敷で体育座りをしながら顔を上げて時折うかがった。
「…ごめんなさい…」
「真冬ちゃんは? 怪我してない?」
「してないです。全然元気です、すみません」
「あはは、なんで謝るの」
「あたしの兄が…」
「どうせ柊人のことだから、また逆撫でするようなこと言ったんでしょ」
「違います、紺君は、助けてくれて!」
ばっと顔を上げると、店長は困ったように笑った。
あとは二人で話しな、と言って、店長は店の鍵を閉め出ていった。
こんなに静まり返った店内、はじめてだ。
メニューもお醤油も爪楊枝も取り皿も全て片付けられた机の上には、椅子が逆さになって置かれている。
今あたしが座ってるお座敷は一通り座布団がきれいにはじに重ねてあり、カウンター先には各テーブルのお醤油爪楊枝取り皿がまとめられている。
沈黙に耐えられず咳払いをすると、紺君はちらりとあたしを見た。