出会いの本〜出会えてよかった〜

また……また、思い出してしまった


記憶の奥底に封じ込めていた筈の記憶


なんでだろ。


ははっ……

泣いてるし


気付けば周りは薄暗く、女子中学生達の声は聞こえない




「はぁー……誰か突飛な世界に連れていってよ。辛いよ……こんな世界」


そう呟いた時だった




「おいで……おいで……」




そんな声が聞こえた気がして河原を見る


すると、見覚えのある



黒い影


はっきりとした形はなくゆらゆらと揺らいでいる。

その影の手をと思える部分がおいでおいでしている。



「……連れて行ってあげる……」



気のせいか、その影はこっちに近づいてる気がする。


逃げなくちゃ…

あの時の、あの時の…


足に力を入れるけど入っている気がしない

体が浮き上がらない


「あ……あ……」


言葉にならない恐怖を感じる

体が小刻みに震えている


私は…

また、あの……

黒い影にやられるの?

それとも、また、大切なものを奪われるの?


あ、そっか


……今私は、一人なんだ……



なら、いいかな……

誰もいないし



ノサノサ……


ゆっくりと、なにかが土手を上がってくるのがわかる


それでも、私の腰は抜けたままで。



こいつに連れて行かれたらどこに行くんだろ

楽になれるのかな?

楽に……



楽に?

私だけ楽に?

極楽浄土にでも行けると?

ほんとに?

私以上に苦しんでる人っているんじゃないの?


苦しいと思っていてもそれを隠して、

孤独に戦っている

そんな人がいるんじゃないの?




なんて私は弱いんだ

弱すぎるよ。弱すぎ



私の近くにいるじゃん

楽になりたい人が


楽に……させたい人が。




顔をあげて前を見据える。

そこには、もうすぐそばまで近づいている不気味な影



まだ震えている私の体

でも、


信じてるから



「助けて……助けて水守!!!」


私はそう叫んでいた
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