そのなみだが乾く頃に
誰かの、忘れ物だろうか。

そう思いながら表紙を見てみるけれど、誰の名前も、ノートのタイトルもない。

私はなんとなく興味をひかれて、すん、と鼻をすすってから、そっと最初のページをめくってみた。



「わ……」



室内にひとりきりにも関わらず、思わず、声をもらす。

ぱらりとめくった最初のページには、紙いっぱいに描かれた、この高校の校舎の絵。

絵、というか、すべて鉛筆で描かれたそれは、おそらくスケッチと言う方が正しいのだろう。

すべて鉛筆で、ということは、色は黒しかなくて。なのにその絵は、陰影までもがとてもリアルに表現されている。

私はそれが誰かの落し物であることも忘れ、食い入るように見つめた。



「すご……こんなの、描ける人いるんだ……」



あれ、でも、このクラスに美術部の人はいなかったはず……。

そう思いながらも、次のページをめくったそのとき。



「ん?」



教室の外からバタバタと荒っぽい足音が聞こえて、私は視線をドアへと向けた。

それと同時に、教室のドアが、外側からガラッと勢いよく開かれて。

びくっと、反射的に肩がはねる。
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