そのなみだが乾く頃に
「あ……」

「え、たかみね、くん?」



ドアを開けたその人物は、同じクラスの、高嶺くんだった。

彼は普段、あまり表情が変わらない人で。だけど今は私が教室にいたのが予想外だったのか、黒縁メガネの奥の目を少しだけ見開いている。

だけどすぐに、いつもの落ち着いた表情に戻った。



「……渡瀬、まだ残ってたんだ」

「あ、うん。でももう、すぐ帰るよ」



ぴしゃりとドアを閉めながらの彼のせりふに、私は少しだけどきどきしながら言葉を返した。

……あまり、高嶺くんとは話したことがない。

彼はあまり口数が多い方ではなく、休み時間なんかも、自分の席についたままぼんやりと窓の外を眺めていたりするような人だ。

かと言って友達がいないわけではなくて、高嶺くん自身がそんな調子でも、よく他の男子たちに絡まれているし。それに彼らの間では、わりと信頼は厚いようだった。

きっと、硬派で余計なことを言わない分、それが信用に繋がっているんだと思う。


高嶺くんはゆっくり、こちらに向かって歩いて来る。
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