そのなみだが乾く頃に
「渡瀬って、部活やってたっけ?」

「あ、ううん。私今日、図書室行ってて……そしたらジャージ忘れちゃってたから、取りに来たの」

「ふうん……俺もまあ、忘れ物」



と、言いながら私のすぐそばまで来た彼が、顔色を変えた。

どうしたんだろう、と思う間もなく、すばやい動きで、私の右手首を掴む。



「ひゃ……っ」

「──渡瀬、このノートの中、見た?」

「っえ、」



驚いて目を見開く私を、どこか切羽詰まったような表情の彼が、見下ろしてくる。

痛いくらいの力で手首を掴んだその手のひらの熱さに、どくんと、心臓がはねた。

高嶺くんから視線を離せないまま、ふるふると、首を横に振る。



「み、見た、けど。最初のページ、だけ」

「……そう」



その答えを聞いて、彼は掴んでいた手を解放した。

すっと、私が持っていたノートを抜き取る。



「渡瀬。俺がこういうの描いてること、誰にも言うなよ」

「え……な、なんで? 高嶺くん、美術部じゃないよね? なのにこんなに絵上手いって、すごいことだと思うけど……」

「別に、これはただの趣味だから。人に見せれるようなもんでもないし」



何か言いたげな私の表情を気にするでもなく、持っていたカバンにノートをしまおうとする。

だけど、不意に。

その手を止めて、私の顔をじっと見つめてきた。

その視線に思わずたじろいだ私が、何事かと口を開く前に。彼のくちびるが、動く。
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