そのなみだが乾く頃に
「……泣いてた?」

「ッ!?」



視線を逸らさないままはっきり口にされて、バッと、私は目元を両手のひらで覆う。

そうしてしまってから、ああ、これじゃ素直に彼の言葉を肯定するみたいじゃないかと思うけれど、時すでに遅し。

そのままうつむいて、しどろもどろ、口を開いた。



「え……ええっとこれは……あの、目に、ゴミが……」

「あのさ、もっとマシな嘘、つけないわけ? 渡瀬って、意外と機転きかないんだ」

「………」



そういう高嶺くんは、意外といじわるだったんだ……。

彼のことだから、まあいいやって流してくれると思ったのに……なぜか今回は、そうはいかないらしい。

「なあ、泣いてたよな?」って、また高嶺くんが確認するみたいに言う。けどそれに言葉を返せず、顔を隠す手もどけることができない。



「………」



するとすぐ近くから、カタン、と何かが触れあう音がした。

それは彼が、自分の肩にかけていたカバンを手近な机に置いた音だったんだけれど。



「……もしかして、」



再び降ってきた声に、また、意識を戻された。
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