そのなみだが乾く頃に
「日本史の加賀先生が、結婚するって知ったから?」

「……ッ、」



高嶺くんのそのせりふに、私はバッと、顔を上げた。

絡んだ視線の先で、彼が笑う。



「ああ、やっぱり。とうとう、知っちゃったか」

「た、高嶺くん……な、んで……」

「『なんで』って、何が『なんで』? 加賀が結婚することを、知ってること? それとも、渡瀬の加賀に対する気持ちを知ってること?」

「………」



あまりにもきっぱり、断定しているように訊ねられて、私は否定することもできない。


──叶わない恋だと、わかっていて。だから、仲のいい友達にすら、言えなかった。

……私が、加賀 哲哉先生のことをすきだって。

どうして、彼は、そのことを。


高嶺くんはすぐそばにあった机に浅く腰掛けながら、どこかおもしろそうに、私のことを見ている。



「……向こうも、やりにくくなりそうだし誰にも言ってなかったけど。俺と加賀……哲哉って、実はいとこなんだよね」

「え……」

「まあ、母方のだから苗字違うけど。だから、あいつが結婚するって話は、前から聞いてた」



これでひとつ疑問解決した?って、彼が言う。

だけど私は、それに言葉を返せずに。

いつもより饒舌な彼の話を、ぼんやりと聞いていた。
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