そのなみだが乾く頃に
「それで、もうひとつの疑問は──」



言いながら高嶺くんは、さっきカバンにしまいかけていたノートを取り出した。

パラパラとページをめくっていき、そうして白紙のページを数枚送った後、開いたところを私に差し出す。

震える手でそれを受け取り、そうして私は、描かれたものを確認して目を見開いた。



「──ッ、」

「我ながら、よく描けてると思うよ、それ。2ヶ月くらい前に、渡瀬が廊下の窓から哲哉のこと見てるの、見つけたんだ」



口元に笑みを浮かべながら、高嶺くんがそれ、と視線で示すのは──どこか遠くを見つめているような、自分でもそうだとわかる、私の横顔のスケッチ。

ぎゅっと思わず、ノートを握る手に力がこもった。



「あのときの渡瀬を見た瞬間、ああ、描きたいなって思ったんだ。あんなにはっきり、恋してるんだってわかるカオしてる人なんて、見たことなかったから」

「………」



──そうだよ。私は加賀先生に、恋をしていた。

どうせ叶わないってわかってても、想ってるだけでしあわせで。

だから、今日も。1階にある図書室でジャージの入ったサブバッグを教室に忘れたことに気付いて、どうせ3階の教室まで戻るなら、その途中にある職員室を覗いてみようって。

職員室に加賀先生がいたら、わからないとこ聞くフリして、話し掛けちゃおうかなって。

そう思って行ってみたら、ドアが開いたままの職員室から、先生たちの話し声が聞こえてきて。

だけど、照れくさそうな顔で笑う加賀先生が中心にいる、その話の内容が。加賀先生が近々結婚するって、話で。


……あまりにもあっけない、片想いの幕切れ。

それまで鮮やかだった世界は簡単に、くすんだものへと色を変えた。

だから人知れず泣きながら、ここまで来たの。

だから──このノートを、見つけたの。
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