【完】甘い香りに誘われて*極道若頭×大人の♀
すみません…リラックスタイムお邪魔したみたいで本当にごめんなさい。」
そう言って謝ると
「いや…それお互い様だから」
その後は当然ながら会話もなかった。
ビールを飲む音だけが響き先に飲み終わったその人はまたしゃがむとスーツからタバコを取り出し火をつけた。
私は、しっかり飲みきろうと黙ってビールを飲む。
会話はもうないけれどイヤな緊張感もなぜかない。
知らないもの同士なのがこんな場面では心地よかったのかもしれない。
知り合いには絶対に見られたくないシチュエーション…。
飲み終わった空き缶を青いダストボックスへ入れるとカタンという音が響き
「それじゃ…」と一応挨拶したら
「あんたいい匂いがするな」とその男からの言葉。
香水はつけていないから不思議だったけど汗臭いと言われるよりいい。
「フラワーショップに勤めているからかもしれない」そう答えると
フッと笑った男が吸い終わったタバコを販売機の横の灰皿に捨て
「じゃ」と歩き始めた。
「おやすみなさい」
身も知らぬ人との不思議な時間の終了。
一度として振り返ることのないその人の背中を少しの間、何となく見つめていたけど
「さて、帰りますか」
私も1LDKの自分の部屋に向かって踵を返した。