お姫様
「晋ちゃん」
珍しく、弥殊から窓越しに呼ばれる。
「どしたの?」
ベッドから起き上がって窓から覗く。
「晋ちゃんの好きな人、どうしても内緒?」
気持ちを誤魔化すために、無理に笑顔を作って言う。
「だめ」
弥殊は黙って少し考え込む。
興味本位でも、俺のことを考えてくれてる。
俺は少し嬉しかった。
やっぱり弥殊がすげぇ好きだから。
「晋ちゃん」
弥殊が改めて呼ぶ。
俺は弥殊をみる。
そんな俺のみ耳に入ったのは、思いもしない言葉。
「陽と別れちゃった」
俺は目を丸くして聞く。
「何で?」
「もう中途半端は辞めるんだ。皆…晋ちゃん達みたいにちゃんと恋愛する」
池端の言葉がまた頭に響く。
「そっか…頑張れよ」
笑って言いながらも、内心不安。
だってそうなると、俺の居場所は?
弥殊は俺から遠ざかる。
「晋ちゃんもね」
弥殊はそういって部屋のなかに引っ込んだ。
姫。
本当に手が届かなくなった気がした。