狼センセイと、内緒。
ガラガラ
教室に入った瞬間、痛いくらいの視線が私を包む。
ジャージだからかな…
嫌だなぁ…
俯きながら自分の席へ座った。
その時、私をイジメている人達が目の前に来た。
「あんたさぁ、なんで朝からジャージなわけ?
ありえないんですけど!」
「そうだよ!
もしかして制服太って着れないとか?」
「あー!そっかそっか!
ゴメンねぇ!」
「……」
もう…勝手に言ってて。
すごく逃げ出したい気持ちになった。
朝の事もあったし、もう耐えられないかもしれない……
そう思っていた時だった。
「お前らひでーぞー!
同じクラスメイトに向かってそれはねーんじゃねーの?」
「姫路君…!」
姫路…君?
俯いていた顔を上げると、金髪の少年のような顔をした男の子がニカッと笑いながら立っていた。
「つか、そこどいてくんない?
俺ここの席なんだけどー!」
姫路君という人の席は私の前らしく、私をイジメる人達を払って席へ座った。
た、助かったぁ……
でもなんか…姫路君見た目不良っぽくて怖い…!
姫路君への第一印象だった。
少し怯えながら姫路君の後ろ姿を見ていると、パッと私の方へ振り返った。
「あ、そーだ!」
「!?」
姫路君はイスを反対に座ってズイっと顔を私に近づける。
第一印象は怖いと思ったものの、少年のようにキラキラした目をしている彼を、一瞬カッコイイと思った。
「ねね、キミ旗手菜波ちゃんだよね?」
「なんで私の名前…」
「俺ずっと友達になりたくてさ!
クラス替えして一緒のクラスになった上、席前後なんて運命感じるよなー!」
「は、はぁ…」
いきなりすごいこと言われてるような気が…
でも悪い気はしないな…!
「よろしく!
俺、姫路 泰斗(ひめじ たいと)って言ーんだ!」
「姫路君…」
「泰斗でいーよ!
呼び捨てでよろしくなー!」
泰斗…
ニコニコしながら私を見る泰斗。
高校に入って初めて出来た友達。
なんで私を知っていたかなんてどうでもいい。
それ以上に私はすごく嬉しかった。
「よろしく!泰斗!」
「お、おー!」
自分なりの精一杯な笑顔を見せると、顔を少し赤くする泰斗。
「どうかした?」
「あー、いや。
菜波ってずっと見てたけど静かだからなんも喋んねーのかと思っててさ!」
そ、そうだよね…!
いつも私俯いてばっかりだし!
それにまたずっとって言った……
泰斗が言うその"ずっと"の意味を、まだこの時の私は知らない。
「そんな表情もできんだなーって思ったら少しビックリしちまってさ!」
「そ、そう?」
おう!と元気に笑う泰斗。
泰斗につられて私も笑顔になった。
私、死ななくてよかった…
そう心底思った。
「はーい静かに!」
泰斗とワイワイ話をしていたら、神風センセイが教室へと入ってきた。
センセイ…!
私の言った通りメガネをかけている姿を見て、胸がキュンとする。
やっぱりカッコイイ…!//
つい見とれてしまった。
「初めまして。
今日から担任の神風聖です」
一礼するセンセイ。
周りのみんなは「ねぇねぇ、カッコよくない!?」とか、
「ヤバー!私狙っちゃおっかなぁ!」とかいろいろ飛び交っていた。
と、取られるのは嫌だ…!
そう思っていた時だった。
「神ちゃん!?」
泰斗が席を立ってそう叫んだ。
みんなの視線が一気に泰斗に集まる。
か、神ちゃん…?
「お前…姫路か?」
驚いているセンセイ。
え!?
センセイと泰斗知り合い!?
「久しぶりー!元気してた?」
「お前こ…君こそ元気にしてましたか?」
「き、君…?」
頭を傾げる泰斗。
もしかしたらと思い、私は咄嗟に泰斗の腕を掴んだ。
「た、泰斗!
後でまたセンセイとお話しよ?ね?」
「ん?あ、うん」
泰斗は渋々席に座ってくれた。
私はホッと一安心する。
ふとセンセイに視線を向けると、「サンキュー」と口パクで言っていた。
「大丈夫です」と私も口パクで返す。
フッとクールに笑ったセンセイにつられて私も少し笑った。
-昼休み-
三時間目の科学の授業の終わりにセンセイに呼び出された。
そして「昼休みちょっと科学準備室来い」と言われ、科学準備室へと向かう。
なんだろう?
「菜波ー!」
向かっている最中、泰斗が大きな声で私を呼んだ。
「ど、どうかした?泰斗」
「昼一緒に食べよーぜ!」
お昼…
そういえば私お昼誰かと一緒に食べたことなかったなぁ高校入ってから。
嬉しい!すごく嬉しい!
だけど私、センセイ優先だからなぁ…
「ご、ごめんね泰斗!
ちょっと私用事あって!」
「えー!
じゃあ俺も一緒についてってやるよ!」
「え!?」
先に教室で待っててと言っても聞いてくれない泰斗。
私は観念して泰斗を連れて行くことにした。