狼センセイと、内緒。
-科学準備室-
泰斗を連れて、ドアをノックした後、ゆっくり扉を開ける。
ガラガラ
少し離れた所に、窓際の椅子に腰掛けるセンセイがいた。
「来るのがおせぇ…って、なんで姫路がいんだよ」
泰斗はニカッと笑ってセンセイにピースした。
「す、すみません…」
「…まぁいい。
丁度良かったと言えば丁度良かったからな」
ん…?
「とりあえずそこ座れ2人とも」
センセイに言われて、イスに座る。
そしてセンセイが私と泰斗の前にビーカーに入ったコーヒーを置いた。
「ちょっ、神ちゃん!
ビーカーにコーヒー入れたらヤバイっしょ!」
「いんだよ別に。
いいから飲め」
センセイと泰斗のやり取りはすごく自然で、見ていて羨ましく思った。
そういえば…
「センセイ、泰斗と知り合いなんですか?」
「あぁ、その話をするために呼んだんだよ」
一口センセイはコーヒーを飲んで話始める。
「前勤めてた学校の生徒だったんだよ姫路。
俺は科学担当だってだけだったんだが、姫路がしつこく俺に付きまとってきてな」
「ひっでー!
そんな言い方ねーだろー!」
二人のやり取りを見て笑う。
センセイが説明したのは、
前の学校で仲良かった?んだけど、泰斗が1年の途中で転校して、センセイも転任してきたこの学校でバッタリまた会った。
そういうことらしい。
「運命だよなー神ちゃんと俺!」
「気持ち悪ぃこと言うな姫路」
「ふふふ!」
確かに運命かもしれない!
でも、なんで泰斗がセンセイの素知ってるんだろう?
「あ、そうだ姫路」
「んー?」
「俺がこんな口調だって言うことと、前の学校でのことは誰にも言うんじゃねぇぞ」
「なんでだよ!」
「それはお前と同じ理由だよ」
「あー…」
言葉に詰まる泰斗。
な、何かあったのかな…?
「どうかしたんですか?泰斗」
「あぁ、お前なら言ってもいいか。
どうせ俺の素を知ってるしな」
改めてセンセイの説明が始まる。
「前の学校は所謂不良学校でな。
姫路は結構他の学校にも有名なくらい喧嘩強かったんだよ」
「照れんなー!」
頭を掻く泰斗。
ふ、不良!?
確かにそんな感じはしたけどまさか予想が当たるなんて…
「そんなこと言ったら神ちゃんだって不良せんせーで有名だったじゃん!」
「えぇ!?そうなの!?」
「おう!
神ちゃん前の学校で生徒全員まとめるくらい喧嘩強くてヤバかったんだぜー!」
ま、まさかそんな過去があるなんて…!
「ま!俺は丸め込まれてないけどなー!」
「お前は別にいんだよ。
一匹狼め」
「そりゃ神ちゃんもっしょー!」
見たことがないセンセイの優しい笑顔。
それを見て胸がドキドキした。
「姫路は不良の世界から抜け出したくてこの学校に転校してきたんだよ。
どこの高校かと思ったら…まさかここだったとはな」
「そう言う神ちゃんだって、真面目にせんせーやりたいって転任してきてこの高校に来たんだろー?」
似た者同士…って感じかな?
だから仲がいいのかも!
「それにお前、不良の世界から抜け出したいだけじゃなく、女の為に来たんだろ?ここに」
「なっ……!!」
いきなり真っ赤な顔になる泰斗。
さっきとは違って、とてもあたふたしていた。
なんか泰斗かわいい!
「なんで神ちゃん知ってんの!?」
「お前が転校した後でだいぶ噂になってたぞ?
"腑抜けた姫路"ってな?」
悪戯っぽく笑うセンセイ。
マジかよ!と照れている泰斗。
なんだかとても微笑ましい。
泰斗にはこの学校に好きな人がいるんだね!
「まぁ…とりあえず。
前の学校のことがバレたら俺もお前もやばいんだぞ姫路」
「わかったって!内緒にするからさ!」
「旗手もな?」
「は、はい!」
知らないセンセイを知れて嬉しかった。
そんなにやばい学校だったのかな?
絶対言うもんか!
っていうか言う人いないけど(笑)
朝の出来事が嘘かのように、私の心は晴れていた。
死のうとあの時思った自分がすごくバカだ。
もう絶対死にたいなんて思わない。
そう心の中で誓った。
「そういえばセンセイ!」
「なんだ?」
「今日ここに呼んだにはワケがあるんですよね?」
「あー…まぁ、そうなんだが…」
歯切れが悪いセンセイ。
「…?」
「ちょっと耳貸せ」
言われた通りセンセイに耳を貸す。
「放課後…話すからちゃんと来い。
姫路は連れてくんなよ」
センセイの吐息が耳にかかって恥ずかしくなる。
「はい…」
2人だけの秘密。
そんなちょっとしたことでも嬉しく感じた今この瞬間。
私はやっぱりどこかセンセイに期待していた。