狼センセイと、内緒。

菜波side


センセイは悲痛な目で私を見る。


「なんで…なんでそこまでして私が知りたいんです…?」

「そんなの…分からねぇよ…」


2人の間に沈黙が流れる。
センセイが全然わからなかった。
さっきのあの行動も、私自信なんでここへ来たのかも…


「何かあったからここへ来たんだろ…?
だから泣いてたんじゃねぇのかよ」

「…はい」


言っていいのかどうか悩む自分。
今まで誰にも相談したことはなかったし、助けてなんて言えなかった。
それを私はわがままだと思ってしまうし、相手に申し訳なく思ってしまう。
だから本音なんて話したことなんかない。
だけどきっと…
センセイの所に真っ先に来た理由は、センセイを信じてるから。
センセイを頼ってみたいと思ったからだと思う。


「センセイ…」

「なんだよ…」

「話…聞いてもらえますか…?」


センセイは黙って頷いてくれた。
2人でイスに座りなおす。
そしてゆっくり話し始める。


「さっき…私をイジメてくる人達に窓から上履きを投げられて…」

「ちょ、ちょっと待て!
お前…イジメられてたのか?」


あ、そういえば言ってなかった!

私は高校に入ってからの出来事を全部話した。


「校長はお前のこと優しくていつも笑顔で、
みんなから好かれてるって言ってたぞ…」

「…いつも笑顔でいるのは心がけてるだけです。
みんなから好かれてるだなんて…逆ですよ」


自分で言っていて悲しくなる。
涙までこみ上げてきた。


「部活で部長で、生徒会の会計努めてるってのは…?」

「全部やらされてるだけです…
ほんとはやりたくない」


面倒事はみんな私に押し付けてみんな楽をする。
それに言い返せない私も私だけど。


「お前…それ誰かに…」

「言ってません…兄にも、もちろん両親にも」

「……」


難しい顔をするセンセイ。
どこか悲しい瞳をしていた。

やっぱり言わない方が……


「旗手…」


そう思っていた時、センセイは私の身体をそっと抱きしめてくれた。
その温もりに涙が溢れそうになる。


「お前…そんなに1人で頑張ってきたのか…
もっと早くに転任してくれば良かったな」


少し笑って言うセンセイ。
いつもの強引な感じとは違う、とても優しい言葉。
つられて私も笑う。


「すみません、変な話しちゃって…」

「変な話なんかじゃねぇ…
お前をもっと知りたくなった」


ドキッ

センセイのその一言で鼓動が跳ねる。

そんなにさらっと言われたらドキッとしちゃうよ…!//


「お前…なんであの時海に入って死のうとしたんだ?」

「…何もかもいきなり全部嫌になったんです」

「まぁ、今の話聞いてりゃだいたい想像はできたけどな…
でも覚えとけ、旗手」


センセイの抱きしめる腕が強くなる。


「お前は俺が絶対死なせねぇ。
何が何でも、俺はお前を守ってやる」

「センセイ…」


どうしてそんな優しい言葉を私にかけてくれるの…?
教えてセンセイ…


「だから…死のうなんて考えんじゃねぇぞ」

「はい…」


胸の中の疑問は言わずに閉まっておく。
閉まっておくしかできない。


「それに旗手…いや、菜波」

「!?」


いきなり下の名前で呼ばれてビックリした。
胸のドキドキはさらに増す。


「名前呼んだくらいで驚いてんなよ…」

「す、すみません…!//」


だ、だって…!
下の名前で好きな人にいきなり呼ばれたら、ドキドキするし驚くよ…!//


「まだお前に…愛の授業してねぇだろ?」

「愛の…授業…」


ふと自分で言ったことを思い出す。
今思い出すとすごく恥ずかしいことを言った気がするけど、センセイの傍にいられる方法はそれしかないと思った。



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