狼センセイと、内緒。
*悲劇*
聖side
次の日の朝。
あまり話したくない奴から電話がかかってきた。
プルルルル
ったく…めんどくせぇな…
少し眠い目を擦りながら電話に出た。
「はい…」
「はよー聖!」
「またお前か…」
電話の相手は…
「朝から大地様の声が聞けて嬉しいだろ?」
「鬱陶しい」
新城大地、俺と同じ高校で働いている保健室の変態教師。
なぜ俺と大地が知り合いかと言うと…
実はこいつも前の学校で保健室の先生をやっていた。
こんなむさくるしい所ごめんだ!と言って俺より先に転任して行った。
まさか、こいつとも一緒になるとはな…
大地は泰斗と似ていて、俺にしつこく付きまとってくる奴だ。
なんだかんだ言ってもこいつとも腐れ縁。
だから何故か憎めない。
「ひっでーな、相変わらず聖はよ」
「うるせぇな…
何だよ?朝っぱらから」
「実はさ、旗手のことなんだけど」
「旗手!?」
な、なんで菜波の事…!
大地からその名前が出た事に思わずビックリして、眠気が一気に吹き飛んだ。
「何ビックリしてんだよー」
「い、いや…なんでもねぇ」
気を取り直して大地の話を聞く。
「旗手さ、最近様子がおかしいんだよ」
「様子…?」
こいつよく色んな生徒に手ぇ出しといて菜波限定に絞ってくるな…
少し違和感を感じた。
「沈んだ顔したり急に女の子みたいな顔になったり。
ずっと笑顔だけしか見たことなかったからなー…」
「そう…か」
ずっとという言葉に引っかかる。
「おい大地」
「なんだ?」
「お前、なんで俺に旗手の話をしたんだよ」
黙る大地。
この沈黙の間、少し胸が苦しくなった。
こんな事なんて今までなかった。
やっぱり俺は菜波に出会ってからおかしい。
「い、いや!
旗手って結構目立ってっから気になっただけだって!」
「ふーん…」
「あいつ女子から人気あるし、男子にもモテるしな!」
「お前なぁ…」
大地は何も分かっていない。
まぁ無理もない。
菜波の本当の思いは俺だけしか知らないから。
俺だけが……知っていればいい。
「勝手に言ってろ。
そんなくだらねぇ話なら切るぞ」
「い、いや待てよ!
本題入るから!」
ったく…
俺朝苦手なんだからもっとゆっくりさせてくれよ…
「お前さ…ダメだって分かってても自分がしたいって思ったら行くタイプ?」
「…?
全然話の趣旨が掴めねぇんだけど」
明らかに動揺している様子の大地。
今までこんな風に話した事はなかった。
もしかしてこいつ…!
「だから…!」
「ハッキリ言え」
「教師と生徒の恋愛ってどう思うかって聞いてんの!」
「……」
教師と生徒の恋愛…
その言葉を聞いて頭が混乱する。
そんな事を考えたことなんか一度もない。
生徒はみんな子供だ。
相手にすると疲れるから、俺は今までみんなに素っ気なくしてきた。
それじゃあ菜波は…?
菜波は違う。
俺は菜波を生徒として見ていない部分もある。
今までしたことが無いような事もしてしまう。
だから、時々理性を失いかける。
「おーい、聞いてっか?」
「…あ!悪い。
教師と生徒の恋愛ねぇ…」
真剣に考えてみたら、そりゃあ駄目なことぐらいは分かる。
だけど、俺は自分と相手の気持ちさえあればそっちを優先すると思う。
どんな手を使っても欲しいもんは手に入れる主義だから。
ちょっと待てよ…
もしかして俺、菜波の事…!
「俺さ、旗手が気になって仕方ねーんだよ」
「!?」
大地の言葉に頭が真っ白になる。
「だからさ、聖にちょっと協力してもらいてーなーって…」
恥ずかしそうにそう言う大地。
だけど俺はそれどころじゃない。
胸が苦しくて仕方なかった。
「…旗手には手ぇ出すな」
「は?」
「菜波に手ぇ出すんじゃねぇって言ってんだ!」
思い切り大地に怒鳴る俺。
自分でもビックリするくらいの声の大きさだった。
「なんだよそれ…
旗手がお前のクラスの生徒だからか…?」
「違う」
「じゃあなんなんだよ!」
それは…
「菜波は俺んだからだ」
「…!?」
電話越しでもわかる大地の様子。
やべぇ…何言ってんだ俺…
勝手に口がそう言っていた。