狼センセイと、内緒。
菜波side
か、カッコイいセンセイ…だなぁ。
なんだろう、この胸のドキドキ。
沈黙が流れる間に、ずっとお互い目を逸らさない。
神風センセイの視線がすごく胸をざわつかせる。
少し鋭い目をしているけど、どこか優しいような、包み込むような眼差しだった。
「それじゃあ、挨拶もすんだし…俺はこの辺で」
「…っあ…!」
沈黙が続いていた時にそう口を開いたセンセイ。
玄関を出て行こうとしたセンセイに、私はつい声をかけてしまった。
「どうかしましたか?」
「あ、あのっ…よかったら、もう少しだけお話しませんか…?」
な、なに言ってんの私!!
初対面だし、センセイにも都合があるかもしれないのにー!!
チラリとセンセイを見ると、少し驚いた顔をしていた。
「あ、あぁ構わない…じゃなくて、いいですよ」
えっ、いいの!?やったぁ!
心の中で大きくガッツポーズする。
まさかOKしてくれるとは思わなかった。
でも話なんてない。
だけど、どうしてもこのまま帰してしまいたくなかった。
「あ…そう言えば、旗手さんにまだ言ってない事もありました」
「言ってない事?」
「あぁ…じゃなくて、はい」
なんだろう、言ってない事って。
「センセイ場所移りましょ!
近くの浜辺にでも!」
「え、あぁ…これからご飯じゃないんですか?」
「そんな、長くなるわけでもなし!兄も許しますよ」
ちょっと半ば強引だけど、神風センセイと一緒に家から徒歩10分程度の浜辺へきた。
今日は少し風が強くて、いつもより潮の匂いがする。
「こんな所にこんな浜辺があったのか…
じゃなくて、あったんですね」
「…センセイ」
途中からセンセイに薄々気づいていた違和感がある。
やっぱりおかしい!
絶対おかしい!
「素で…いんですよ?」
思い切って言ってみた。
センセイはとても驚いた表情で私を見る。
だって…無理な敬語使ってるんだもん。
「…はぁ、いつ気づいたんだ?」
センセイはため息して、頭をクシャクシャっと掻いた。
さっきの表情とは全然違う、とてもクールな眼差し。
そんな少しの変化にもドキドキしていた。
「途中から?」
「そうか…やっぱり慣れない敬語は使いづらいな…」
やっぱり慣れてなかったんだ。
…センセイかわいいかも!
「ん?どうした、そんなにニヤニヤして」
「なんでもないですよ~♪」
「なんだそりゃ」
センセイはそう言って、フッと笑った。
ドキッ
その笑顔に、胸が弾む。
ど、どうしたんだろ私…////
やっぱりさっきからおかしいよ…
「旗手…?」
「は、はい!?」
「急に顔赤くなってどうしたんだよ?」
ずいっと顔を覗き込むセンセイ。
ち、近いよっ…!//
「な、なんでもないですっ!////」
「…?
まぁ…よくわかったな、素じゃないって」
「そりゃわかりますよ!
センセイちらほら見え隠れしてましたし!」
まぁなとセンセイは頷いた。
センセイの素を今見てから、なんだか教師に見えない自分がいた。
1人の男性として…話している錯覚に陥る。
そして、そうであって欲しいと思ってしまう。
「…まぁ、学校では素は見せれないからな。
隠せるか心配だ」
うーんと悩むセンセイ。
なんで素を見せちゃいけないんだろう??
でも、センセイが悩んでるなら私が力になってあげたいっ…!!
…あ!
「神風センセイ!」
「ん?どうした?」
「メガネかけるってどうです?」
「…は?」
センセイは、お前何言ってんだアホというような顔で私を見た。
うう…別にそんな顔しなくたって…
た、確かに少し安易な考えだけど…!
「ほ、ほら!メガネかけると真面目に見えるから敬語も似合うかなって!」
「…まぁ、根拠には欠けるが……旗手が言うことは一理ある」
やった!
心の中でまたガッツポーズ。
「…メガネか。旗手の話にのってそうするか」
「ほんとですか!?」
嬉しい!!
神風センセイのメガネ姿…きっとカッコいいだろうなぁ…
勝手に想像してニヤニヤする私。
少しセンセイの役に立てたみたいで嬉しかった。
「そういや、旗手。
頼み聞いてくれないか?」
「へ!?」
た、頼み…!
センセイから頼み!?
「嫌なら別にいいんだ、断っても」
「き、聞きます聞きます!
私なんでもやります!」
センセイからの頼みならなんでも聞くよ私!
な、なんか忠犬みたいになってるけど!
でもセンセイに頼られたい!
会ってそんなに経っていない。
それなのに、こんなにもセンセイに引き込まれている。
どんどん知りたくなってしまう。
「へぇ…お利口さんだな、お前」
「え…」
ニヤっと笑うセンセイ。
その悪戯っぽい表情にまたドキッとする。
「確かに優秀な生徒だなお前。
そそられる…」
「せん…せ…//」
センセイはいきなり私の首筋に顔を近づける。
どうしてこんな状況になっているのかまったく理解できない私。
センセイの吐息が首筋にかかった。
「ふーん…」
そう言ってすっと離れるセンセイ。
い、今のはなんだったの…!//
「お前、俺と相性がいいらしい」
「へ!?
いきなりなんですか…!」
悪戯な笑みを浮かべながら意味不明なことを言うセンセイ。
その笑みから目が逸らせない。
「今お前の首筋の匂いを嗅いだ。
それでわかったんだよ」
「……?」
全然意味わからない!
なんで匂いだけでわかるわけ!?
最初の出会った時の印象とはまったく違う性格のセンセイに少し戸惑う。