未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「小松、今日は疲れたろ? まさか今日から早速始めるとは思わなかったよ。作法だの稽古事を……」

「はい。少し……」

「俺もちょっと疲れてる。だから、今日は寝ようか?」

「……しないんですか?」

「うん。明日……だな。明日しよう?」

「はい、わかりました。では、おやすみなさい」

「おお。おやすみ……」


俺はすっかり萎えてしまった。


俺も小松も体を横たえたが、無駄に広いベッドのおかげで、二人の間にはかなりの隙間が空き、それが今は有り難かった。


やがて小松からは微かに規則正しい寝息が聞こえて来たが、俺はちっとも眠れそうになかった。疲れたというのは、もちろん嘘だ。


いつまでもまんじりともしない俺の頭に去来するのは、“なぜ”と“どうする”の2つの言葉だった。

なぜ小松とあの男はキスもしていないのだろうか。当然、その先もしていないだろう。単なる友達なのだろうか。あるいは、あの男はゲイだったり?

それとも、プラトニックか……

その可能性が高いと思う。あの男は誠実で、小松を大事に思うが故に、未だに手を出していないのではなかろうか。まだ幼さが残り、人形のように可愛く、可憐で純真な小松であれば、あの男の気持ちが俺にもわかる気がする。


俺はどうすればいいのだろう。何も考えずに、小松を抱けばいいのだろうか。それは、人が大事にしていたものを横取りする行為と思われ、人として、そんな事をしていいものなのだろうか……

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