未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
甘い夜
「なんだよ、ノロケか?」


兼続には、小松は男とキスするのも初めてだった、という事だけを言った。それに対し、返った言葉がそれだった。


「ノロケ?」

「ああ。要するに、自分が妻にする女はキスも初めてな純真でまじめな女だって言いたいんだろ? だったら、ノロケ以外の何物でもないだろ? はいはい、羨ましいですね?」

「そうじゃないんだって……」


さすがの兼続も、俺が本当の事を言わない限り、俺の葛藤をわかってはくれないようだ。当たり前だが。しかしなあ……

兼続に全てを打ち明けたい気もするが、それは出来ないと思った。小松の悪口を言いたくないし、それに付け込んだ俺が軽蔑されるのも嫌だから。軽蔑されても当然の事を、俺はしているのだけれど……


「それで? おまえはそれにビビッて出来なかったわけか?」

「まあな」

「ノロケもいいが、事の重大さをわかってるんだろうな?」

「はあ?」

「つまり、35の誕生日までに跡継ぎを作らないとどうなるかって事さ」

「ああ、それか。わかってるさ、もちろん」

「本当か? 真田家の存亡がかかってるが、それだけじゃ済まないんだぞ?」

「と言うと?」

「真田家はこの会社の半分の株を持つ筆頭株主でもある。もしそれが売却される事になって、外資系の企業にでも買い上げられたらどうなるよ? 乗っ取られるぞ。数万人の社員、いや関連企業を含めれば数十万の人々の生活がかかってるんだ」

「それは大げさじゃないか?」

「大げさじゃない!」


う。兼続に怒鳴られてしまった。


「何がなんでも跡継ぎを作ってくれ。頼むから」

「わかったよ……」


心のモヤモヤは晴れなかったが、それしか道がない事だけは、はっきりと自覚した俺であった。

< 121 / 177 >

この作品をシェア

pagetop