未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「それは……しました」


さすがにその質問には呆気なくとはいかなかったが、しかしキッパリと小松は答えた。


「そうか。それで?」

「と言いますと?」

「彼は、何て……」

「とても驚いてました。でも、“良かったな”って言ってくれました」

「なに?」


“良かったな”?

なんだ、それは。あの男は小松のいったい何なんだ?


「えっと、事情は話してないので」

「事情?」

「はい。つまり、ご主人さまとの、その……契約の事は」


契約?

二人で交わした約束を、小松は契約と言った。契約か……。なるほど、確かにあれは契約……だな。互いの利益のために、二人で交わした契約に過ぎないんだ。

俺の利益は、そもそもは俺を騙した小松への仕打ちだったが、後付けで真田家の存続という大きなオマケが付いた。小松の利益は……金だな。くそっ。


「そう言えば、爺やにおまえのクレジットカードを作るように言ったんだが……」

「はい。今日受け取りました」

「そうか。それを使って、欲しい物を何でも買えばいい」


小松は何が欲しいのだろう。宝石か?
あるいは車。いや、それはないか。俺じゃあるまいし。案外、家だったりしてな。まあ、いい。好きな物を何でも買えばいいさ。


「それなんですけど……」


小松は何かを言おうとして、しかし言いにくそうに口ごもった。


「どうした?」

「あの……げ、現金を頂きたいんです」


小松は小さな声でそう言うと、俺から視線を逸らして目を泳がせた。その顔は、例えるなら悪事を咎められた子どものようだ、と俺は思った。

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