未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
言った……。しかし、やっぱり嫌な響きだなあ。離婚というのは……


「離婚? あなたがですか?」

「はい」

「その場合、相続に影響があるか、というお尋ねですか?」

「そうです」

「ありません」


石田弁護士は、何の躊躇いもなくそう言い切った。


「既にあなたはお父上が遺された遺言の条件を果たしました。従ってそれ以降に何が起きても相続に影響する事はありません。お父上に隠し子がいた、などという事がない限り、ですが」


あの堅物の父に隠し子? それはないな。


「そうですか。では、仮に何かの事情で跡継ぎが生まれなかったとしても……」

「同じです」


やっぱりそうか。という事は……


「そのようなご予定ですか?」

「は?」

「もし財産分与などで揉めるようでしたら、ぜひ私に調停役をお任せください」

「はあ……。い、いいえ、今のは例え話ですから」

「存じております。私も、例え話として申し上げただけです。では、失礼させて頂いてよろしいでしょうか?」

「はい。……あ、今の話は他言無用でお願いします」

「承知しました。では……」


俺は、帰って行く石田弁護士の背中を見ながら、ある事を心に決めた。それは、俺にとってはこの上ない、苦渋の選択なのだが……

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