未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「君のおかげで、真田家も会社も安泰になったよ。ありがとう」

「私は別に……。でも、良かったです」


まずは小松に礼が言いたくてそれを言ったが、本題はそれではない。それをこれから言わなければいけないのだが、いざとなるとやはり躊躇してしまう。

俺と小松の間を、重苦しい沈黙の時が流れた。


「ご主人さま?」


それに堪り兼ねたように小松が声を出し、それを合図にするかのように、俺は重たい口を開いた。


「終わったんだよな?」

「はい?」


唐突な俺の言葉に小松は戸惑ったようだ。顔は見ずとも、声の調子でわかる。


「契約がさ。つまり、君と俺で交わした契約。俺、というか俺達は、真田家の安泰を得て、君は好きでもない男の子どもを身籠もり、その代償に金を得るという……」


本当は“契約”なんて言葉は使いたくなかった。俺的には“約束”と言いたいとろだった。どっちでも大して変わらないかもしれないが。

“契約”という言葉を最初に使ったのは、小松の方だ。俺はそれを聞いた時、小松の気持がその事に凝縮されていると思ったんだ。いや、そう思わなくてはいけないのだと……

そしてその契約は、たった今、終わりを迎えた。

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