未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「どうかした?」

「い、いいえ、何でもありません。コーヒーのブラックですね。かしこまりました」

「それと、自分のも淹れなさい」

「はい?」

「少しの間、僕に付き合ってほしいんだ。嫌かな?」


俺はこのメイドと話をしてみたいと思ってそう言った。と言っても、あの未来から来たらしい女性の話をメイドとするつもりはない。話したところで信じてもらえそうもないし、仮に信じられたとしても、それでどうなるものでもないと思うから。

この子の名前は何なのか。歳はいくつなのか。まずはそれらを知りたい。今まで俺は使用人に対して興味を持つ事は殆どなかったのだが、このメイドだけは妙に気になるんだ。なぜかは分からないのだが……


「嫌ではありませんが、叱られますので……」

「爺やにかい?」

「あ、はい……」


年老いた執事の爺やが、目を三角にしてこのメイドを叱りつける光景が目に浮かび、思わず俺はフッと笑ってしまった。


「旦那さま……?」

「ああ、ごめん。爺やには内緒にすればいい。そうだろ?」

「それはそうですが……」

「じゃあ、そういう事で。一人じゃ怖いだろうから、僕も行こうか?」

「め、滅相もありません。それに私、もう子どもじゃありませんので……」


最後は少し口を尖らせて言い、メイドは部屋を出て行った。俺の言葉に腹を立てたらしい。実に面白い子だ。それと、怒った顔も可愛いなと、俺は思った。

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