未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
母の部屋の扉をノックしたら、中から「どうぞ」という返事が返って来た。残念ながら、母はまだ起きているらしい。


仕方なく中へ入ると、母はネグリジェの上にガウンを纏った姿で俺を迎えた。眠る態勢にしつつ、俺の帰りを待っていた、という事だろう。


「遅かったのね?」

「すみません。なかなか仕事に切りがつかなかったものですから……」

「そう? 最近のあなたは、すっかり仕事に精を出してるようね。それはいい傾向だわ。立ってないで、お座りなさい」

「はあ」


俺は母に言われるままに、大きなソファに腰を下ろし、母も俺の向かいに腰掛けた。


「突然の事だから、びっくりしちゃったわよ」


座ると同時に母はそう言った。聞くまでもなく、小松が屋敷を出た事を言ってるのだと思う。


「“短い間ですけど、お世話になりました”なんて言うんだもの、あの子ったら……」

「そうですか。他に何か言ってましたか?」

「それが言わないから困ってるのよ。私が“どうしたの?”って聞いても、あの子ったら口を閉じたままで、何も言わないのよ」

「そうですか……」

「爺やも慶次さんも何も知らなくて、みんな驚いたわよ……」

「ですよね」

「ねえ、いったい何があったの?」


来た。うーん、何て言おうか……

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