未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「お待たせしました」


メイドは俺が思ったよりも早く戻って来た。コーヒーカップが二つ乗ったトレイを手に持って。


「どうぞ」

「ありがとう。君もそこに座りなさい」


メイドはテーブルにコーヒーを置き、向かいのソファーにやはり浅く腰掛けた。背筋をピンと伸ばし、緊張しているように見える。


「もっとリラックスしなさい。おや。君はココアにしなかったのかい?」


メイドのも俺のと同じカップで、その中も俺のと同じくコーヒーのようだ。しかもブラックに見える。


「はい。旦那さまをお待たせしてはいけないので……」


ああ、そういう事か。だから早く戻って来れたのだな。


「そんな事、気にしなくて良かったのに……」

「いえいえ、とんでもございません」

「では早速いただこうかな」


カップを持ち上げ、一口すすると、香りと共に特有の苦味が口に広がり、それだけで気持ちがホッと落ち着くような気がした。


「うん、美味しいね。君も飲みなさい」

「は、はい」


メイドは白く細い指先をカップに添え、おずおずといった感じでカップを口に運んだ。そして口に含んた瞬間、嫌そうに顔をしかめたのを俺は見逃さなかった。


「どうだい?」

「お、美味しいです」

「無理してないかい?」

「そ、そんな事は……」

「やはりココアにすべきだったね? あるいはクリームと砂糖をたくさん入れるとか……」

「いいえ、本当に美味しいです。私はもう……」

「子どもじゃない?」

「そ、そうです」

「なるほどね」


俺はもう一口、コーヒーをすすりながら、ついニヤッと笑ってしまった。するとメイドは、またしても口を尖らせた。俺が期待した通りに……

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