未来から来た花嫁 ～迷走する御曹司～

「旦那さま……」

「ん？」

「そんなに見られては……恥ずかしいです」


メイドはそう言うと、顔を赤らめてモジモジした。言われてみれば、確かに俺はメイドの顔をじーっと見ていたようだ。見入っていた、と言ってもいいぐらいに。


「それはごめん。それはそうと、その“旦那さま”と言うのは止めてくれないかな？」

「はい？」

「そんな風に呼ばれると、自分が急に老け込んだような気がしてね」

「そうですか？ でも、皆様そうお呼びしていると思いますが？」


確かにそうだ。
約2ヶ月前、俺の父親は心筋梗塞で突然他界したのだが、その後一人息子の俺がこの家の当主となり、以来使用人達の俺に対する呼び名が、“坊っちゃま”から“旦那さま”に変わったのだ。

それを今までは何とも思わなかったのだが、この若いメイドから呼ばれると、自分がいかにも年寄に思え、と言ってもまだ30代の半ばなのだが、面白くないのだ。