未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「まさか、ご主人さまとは思いませんでした」


歩きながら小松はそんな事を言ったが、意味がわからない。


「それってどういう事?」

「今日、親会社の偉い人が視察に来るって聞いたんですけど、その人がまさかご主人さまとは思わなかったから、びっくりしました」

「え? 視察じゃないし、それは変だなあ。いつ聞いたの?」

「朝礼の時です」

「じゃあ違うよ。それは俺の事じゃない。ここに来ようと決めたのは、つい30分ぐらい前だからね」

「そうなんですか?」


などと話していると、前方からよく知った男がやって来た。


「慶次……」

「あ、信之さん。あれ、小松ちゃ……じゃなかった小松さんも? 久しぶりですね!」


相変わらず軽い調子の慶次だが、珍しくビジネススーツを着込んでいた。


「おまえ、こんな所で何やってんだ?」

「え? 視察ですよ。パパにどこかの店舗を見て来いって言われて、家から一番近いからこのスーパーに決めてこれから見学するところです」

「それって、もしかして仕事か?」

「そうですよ? 信之さんから言われましたからね。1ヶ月以内に仕事しろって……。だからパパの会社で仕事を始めたんですよ。パパの会社って、こういうスーパーとかショッピングモールとかを経営してるんですよね。あまり知らなかったんですけど」

「あ、ああ、そうだったな」


って、俺もあまり知らなかったのだが。

なるほどね。スーパーの店員さん達は、俺を慶次と間違えたわけか……


「じゃっ」と言って通り過ぎようとする慶次を俺は呼び止めた。


「中に入ったら、しっかり自己紹介しろよ。“僕が本物の前田慶次です”ってな?」

「本物?」


不思議そうに慶次は首を傾げ、俺と小松は目と目を合わせ、クスッと笑い合うのだった。

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