未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
小松のお腹は、ぺったんこだった。全く膨らんでいない。それはつまり、赤ちゃんを堕したからに他ならない。


「どうしたんですか? 急に人のお腹に触って、“やっぱり”って……」

「小松、本当にすまなかった。君はきっと罪の意識に苛まれていると思うが、悪いのは君じゃない。俺なんだ。俺が全て悪い。だからこの罪は俺が被る。一生……」


俺は誠心誠意、小松に謝り、彼女を慰めたつもりだ。ところが、小松はなぜかキョトンとしている。


「あの……何の事でしょうか?」


ん?

小松は、本当に俺の言う意味が分からないらしい。それはもしかすると、記憶喪失か?

人は非常にショックを受けると、無意識にそれを忘れる事があるという。自己防衛のために。

うん。それでいいのかもしれない。小松にとっては。ああ、俺も出来る事ならそうしたかったなあ。


「ごめんよ、幸村……」

「誰ですか? その人……」

「え?」


しまった。つい口に出してしまった。


「確か“幸村”って言いましたよね? 女の人ですか?」


小松はムキになって聞いて来た。何か勘違いをしたらしい。


「違うよ。幸村というのは男の名前さ。しかも真田家では最も偉大なご先祖様の名前で、この数百年、誰一人その名を子に付けた事はない。恐れ多いからだ。だが、俺はそれを破るつもりだった。つまり、自分の子に幸村と名付けるつもりだったんだ」


過去形で話さなければいけないのが、何とも辛いのだが……


「あなたの名前は、“幸村”でちゅよ?」

「…………えっ?」

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