未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
俺の中で、妊婦と言えばお腹がぷっくり膨らんだ女性のイメージしかなかった。だから小松のお腹も、多少ではあっても、既に膨らんでいるものとばかり思ったのだ。

ともあれ間に合って良かった。俺はホッとしながら、しかし疑問も残った。


「そうなんだあ。でも、どうして……」

「私は赤ちゃんを堕ろすなんて事、全然考えてませんから。しっかり産んで、一人で育てます」


ああ、そういう事か。


「それなんだが……」


“一人じゃなくて、二人で育てよう?”

俺はそう言おうとしたのだが、


「あ、ダメじゃないですか……」


それよりも早く、小松にそう言われてしまった。俺とやり直すのはダメ、という意味だろうかと一瞬思ったが、そうではないらしい。


「幸村という名前は、苗字が“真田”だから意味があるんですよね? “本多”だと、忠勝とか、あるいは正信とかが良いと思います」

「おお、確かに。小松は歴史に詳しいんだな?」

「私、こう見えても“歴女”ですから」

「なるほど。君はSFやファンタジーが好きで、おまけに歴女か。多趣味なんだね?」

「そうです」


と言って、小松はドヤ顔をして胸を突き出した。こんな小松は初めて見たが、これまたすっごく、可愛いなあ。


「でもね、いいんだよ。幸村で。その子のフルネームは、真田幸村なんだからさ」

「それって……赤ちゃんを私から取り上げるって事ですか?」


途端に小松は悲しそうな顔になり、俺を見つめた。

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