未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「ああ、そういう事?」

「そういう事だ」


俺はそう言いながら小松のチョコを箱ごと慶次から受け取った。これでこの話は終わり、そう思ったのだが……


「小松ちゃんと、いつそんな話をしたの?」


慶次は終わらせる気がないらしい。


「え?」


と言って慶次の顔を見ると、微かに笑っているようで、それでいて目だけは鋭く、まるで俺の胸の内を探るかのような目付きで俺を真っ直ぐに見ていた。


「信之さんが爺や以外の使用人と話し込むところって、僕の記憶ではあまり見た事ないんだよね。まして小松ちゃんは家に来てまだ1ヶ月かそこらなのに、いつの間にそういう話をしたのかなと思ってさ。しかも信之さんって、普段はあまりプライベートな話をしないよね?」


うーん、確かにそうだ。俺は無口な方だし、実は人見知りもするから、あまり人と話す事は多くなく、この家で比較的話す事が多いのは、母と爺やとこの慶次ぐらいだった。


「確かにそうだが、たまにはメイドと話すぐらいはするさ」

「それはそうだよね? で、いつ、どこで話したの?」

「ん? それは……憶えてないなあ」


それはもちろん嘘だ。昨日の深夜、しかも俺の寝室で話した、なんてバカ正直に言えば、間違いなく慶次に誤解されてしまうだろう。だから忘れた事にしたのだが……


「それは変だなあ」


慶次の目がキラリと光った、ように見えた。

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