未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「何が変なんだよ?」

「だってさ、信之さんは小松ちゃんが“急遽”チョコの味を変えたって言ったよね?」

「ああ、言ったと思う」

「“急遽”って事はさ、ギリギリって事でしょ? つまり信之さんは甘い物が苦手だと知ったのはギリギリだった。例えば昨日とか一昨日とか。それなのに憶えてないって変でしょ?」

「う……」


確かに慶次の言う通りだ。くそー、こいつって本当に鋭いなあ。


「ねえ、どうなの?」

「憶えてないものは憶えてないんだよ!」


もう破れかぶれだ。あくまで“忘れた”で通しちまおう。


「あ、そう。まあいいや。もう一つ気になるんだけどさ……」

「な、何だよ?」


まだ何かあるのかよ……


「信之さんは小松ちゃんの事を“小松”って呼んでるよね? どうして?」

「どうしてもこうしても、それがあの子の名前だからに決まってるだろ?」

「でもさ、今までだったら苗字で呼ぶでしょ? しかも“さん付け”で、“本多さん”って……」

「そ、それは……」


確かにそうだ。小松という名前が古風で印象的だったから、すぐにあの子を小松と呼んでいたが、今までに使用人を下の名前で呼んだ事があっただろうか……
ないな。今回が初めてだと思う


「ねえ、どうして?」

「そんなの僕の勝手だろ? いちいち煩いよ、おまえは……」


執拗に迫る慶次に、俺は半ば切れ気味で応えた。何だって慶次はこんなにもシツコイのだろうか……

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