未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「うっかりしただけよ……」

「いいえ、そうではないと思います。あなたはヒロミを全く知らなかった。僕が長年飼ってるネコなのに。という事は、あなたが未来から来た花嫁だって話、嘘なんでしょ?」

「う、嘘じゃないわ。本当よ? 確かに私はヒロミなんてネコは知らないわ。だって、私の未来にはそんなネコは居ないんだもの……」

「往生際が悪いなあ。僕はあなたとかどうかは別として、あと3ヶ月足らずで誰かと結婚しなければいけないんですよ。そんな僅かな間にヒロミが消えたって言うんですか?」

「そ、そうなんじゃない?」

「そんなバカな。ヒロミはもうかなりの年ですけど、定期的に獣医に診てもらって体調管理をしっかりやってるんです。最近は少しボケ気味だけど、特に病気は無いそうで、そう簡単に死ぬなんて事はないんだ」

「そんな事言われても知らないわよ。死んだんじゃないなら逃げたんじゃない?」

「それもない。ヒロミは完全な“家ネコ”だから、少しの間姿が見えなくなる事はあっても、屋敷の外に出るはずない」

「そんなの知らないわよ……」


菊子さんはすっかり元気をなくし、俺と目を合わせず、かつ泳いでいる。やはり未来からタイムスリップして来た、という話は嘘だったのだろうか……

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