未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
俺は咄嗟に声が出なかった。菊子さんの口から飛び出した“息子”という言葉は思いもよらないものだったからだ。

息子、つまり子どもか……。しかも、俺の?
当たり前だけど、全然実感出来ないや。

うーん……って、真に受けるな、自分! どうせ作り話に決まってるんだから。


だが、待てよ。信吉という名前は真田家では由緒ある名前じゃなかったか?

俺の名前もだが、昌幸、信繁、信政、そして信吉。確か曾祖父の名前も信吉だったような……

うーん、作り話にしてはリアルだなあ。


「お願い! あの子の存在を消さないで? 信吉は私の生き甲斐なのよ。私の命なの。ううん、あなただって、あの子をすごく可愛がってるんだから……」


今度は懇願するように菊子さんは言い、目を潤ませた。

これも演技なんだろうか。だとしたら大した役者だと思う。だが、もし本当なら……

俺の決断によっては、未来から一人の人間を消してしまう事になる。しかも、自分の愛すべき息子を……


「ねえ、私と結婚してくれるでしょ?」

「それは……」

「まだ迷ってるの? 信吉はあなたの息子なのよ? あの子を消してもいいの?」

「そう言われても、僕には実感がないわけで……。もう少し考えさせてください」

「この分からず屋!」


菊子さんは、今度は一転して怒った顔になり、モゾモゾと何かをやり出した。


「どうしたんですか?」

「オシッコよ!」

「ああ、そうですか」


菊子さんは前回と同じく、白いシーツをドレスのように体に巻くと、足早に寝室を出て行った。

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