未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
屋敷へ向かう車中で、俺は爺やに電話を掛けた。小松が屋敷から逃げ出さないよう、見張ってもらうためだ。こっちの動きを小松は知らないだろうから、考え過ぎとは思うが、念のためだ。


「爺やかい? 信之だけど、頼みがあるんだ」

『はい、何でございましょう?』

「今、僕は家に向かってるんだけど、僕が戻るまで、メイドの小松が出掛けたりしないように見張ってほしいんだ」

『小松をですか? それはまた、どうして……』

「理由は後で話すからさ」

『かしこまりました。ですが……』

「なに?」

『小松めは既に出掛けておるようでして……』

「なんだって? どこに?」

『さあ、それはわかりません。1時間ほど外出させてほしいと申しまして……』

「いつ?」

『つい今しがたでごさいます』

「わかった。もし戻ったら確保してください」

『確保、でございますか?』

「そうです。捕まえておいてください」

『旦那さま。小松めはいったい何を……』

「事情は後で話します」

『かしこまりました。それと、間もなく浅井さまがお着きになります』

「あ……そう? 待ってもらってください」

『かしこまりました』


爺やとの通話を終えると、すぐに俺は運転手に寄り道してもらうよう頼んだ。

おそらく小松は、またあのアパートへ行ったのだと思う。伊達という、彼氏のアパートへ。俺はそこへ乗り込もうと思う。それでどうなるかは分からないし、修羅場になるかもしれないが、待つ気になどなれなかったのだ。

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