未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
例の狭い路地の入り口で車を停めてもらい、俺は車から降りた。


「あまり長くは掛からないので、ここで待っててもらえますか?」

「はい、かしこまりました」


もし小松が伊達という男のアパートにいなければ、その時はもちろんすぐに引き返すし、いたとしても、菊子さん達を長く待たせる訳にはいかないので、どっちにしろあまり時間は掛からないはずだ。


もし小松がそこにいたらどうしようか。菊子さんと会っていた理由を問い詰めたいが、そんな時間はないだろう。車の中でしようにも、運転手に聞かれたくはないし……


いや、そんな事よりもっと重大な問題があるじゃないか。もし伊達という男と顔を合わせたら、俺はどうすればいい。小松の雇い主で、急用があって迎えに来たと言うか?

果たして俺は、そんな風に冷静でいられるのだろうか。もし、俺の目の前で二人がイチャイチャしたら、それでも冷静でいられるのか?

あるいは、今、正にそうしている最中かもしれない。1時間の外出というのは、そういう事なのかもしれない。

ああ……くそっ。


そんな、“もしも”の事ばかり考えている内に、俺はあのアパートの前に着いていた。

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