未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
初めて見る小松の泣き顔に、俺は一瞬胸を打たれた。抱きしめてあげたいと思った。だが、次の瞬間には憎悪が込み上げた。そしてその憎悪は、最初に生じた感情を瞬く間に飲み込んでいった。

要するに逆ギレか。“盗人猛々しい”とは正にこの事だな。


「そんなに欲しけりゃやるよ」

「えっ?」

「おまえに金をやる。好きなだけ使えばいい。真田家が破産しない程度ならな」

「の、信之さま……?」

「“ご主人さま”と呼べ」

「え?」

「そして俺に服従しろ。それが条件だ」

「…………?」


小松は俺を見つめ、唖然とした顔をしている。それはそうだろう。言ってる自分でも驚いているのだから。だが、取り消すつもりはない。

金なんか、もちろん惜しくもなんともない。それよりも、俺はこの小松を何とかしたい。この可愛い顔をした悪女を、とことん虐めたい……


「どうなんだ? 俺の条件を飲むか?」


果たして小松は何て答えるだろう。いくら金が欲しいとは言え、恋人がいる身で他の男に服従なんかしないだろうな。そう思ったのだが……


「わかりました」

意外にも、小松はしっかりと頷きそう答えた。目はしっかりと俺を捕らえながら。


「そうか。じゃあ、早速呼んでもらおうか?」

「はい、ご主人さま」


俺の中で、様々な感情が入り乱れた。それは怒りや憎悪や失望、そして期待。怒りたいような泣きたいような、それでいて笑いたいような、なんとも複雑な心境であった。

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