未来から来た花嫁 ~迷走する御曹司~
「あ……」


菊子さんは口をポカンと開き、唖然とした顔をした。ようやく自分のミスに気付いたようだ。これであっさり嘘を認めるかと思ったのだが……


「き、聞いたのよ」

「聞いた? 誰からですか?」

「未来のわたくしからですわ」

「ああ、なるほどね……。未来の自分と対面するって、変な感じでしょうね?」

「そ、そうね。あまり気持ちの良いものではないわ」


菊子さんは小鼻を膨らませ、“どうよ?”と言わんばかりの顔をした。まったく、往生際の悪い女だ。


「では話を戻しましょう。あなたが初めてタイムスリップして来た夜、もちろん僕はそれを信じる事は出来なかった。しかし、あなたは廊下に出た途端、忽然と消えた。その時、“たまたま”廊下にいたメイドの小松は、あなたを見てないと言う。つまり、一瞬にして消えたわけですね?」

「そうよ。タイムスリップしたんですもの」


「その事で、僕は信じ初めたんです。半信半疑ではありましたけどね。そしてチョコレート。あなたは言いましたね? 一番若い使用人から貰ったチョコがしょっぱかったと。それで僕が怒ったと」

「え、ええ。その話も聞きました。未来のわたくしから」

「確かにしょっぱかったです。一番若い、小松から貰ったチョコは」


俺がそう言うと、“ほら見なさい”と言わんばかりに、菊子さんは勝ち誇った顔をした。


「でもね、変だなと思いました」

「な、何がですの?」

「僕はね、怒らなかったんですよ」

「はあ?」

「普通は怒ると思ったんでしょうけど、僕はそんな事ぐらいで怒る性格じゃないんです」

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