わがまま即興曲。
「あ…あ…それは…」


それは、とんでもなく重い質問。


「谷中くん、彩音ちゃんの病状わかってるよね?薬で抑えてるし、定期検診でもみてるから可能性は最小限とはいえ、いつ大きな発作が起こるかはわからない。その時、すぐに対処できればいいけど、君や私のような医者が近くにいるとは限らない。手術をすれば治せるかもしれない。でもいつ再発するかもわからない。そもそもその手術だって普通の人と比べてリスクが…」


「わかってますよ!」


今度は僕が、話を遮って、つい声をあげてしまった。

わかってる。

彩音さんは患者だ。
僕は医者として、できる限りのことはする。


「医者は神様じゃないのよ。」


わかってる。

僕は神様じゃない。
手を尽くしてもどうにもならない時もある。

「僕ももう5年、この病院にいます。
…何人も見送ってきています。」

それは、とても、とても辛いこと。

「わかってるわよ。指導医だもの。
そういう感覚が麻痺してくる医者もいるけれど、君はそうじゃない。」

だけど、医者になった以上、そこで立ち止まることはできない。
いっそ麻痺してしまえば楽なのかもしれないけど。
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