36.5度のキョリ
(死ぬほど嫌だわ)
鏡に映ったげっそりとした自分の顔を見て、何度目か分からない溜め息をつく。
引き受けてしまった。
よりにもよってあの【和泉くん】の。
でもあの場面でNOとは言えなかった。
織川千春は「才色兼備で誰にでも対等に接する優等生」なのだ。
内心死ぬほど嫌でも、死ぬ気で頼みを受けなければならないのだ。
期待を、憧れを、裏切るわけには。
「…………」
馬鹿らしいとは思わない。
自意識過剰な事は分かってる。
けど、望まれてるんだから。
「……応えないわけにはいかないよね」
小さく呟いた言葉は、
押し付けた枕に溶けて消えた。