36.5度のキョリ
先程来たばかりらしい【ヤツ】は、
鞄の中を無造作にいじりながらも私の視線に気付き、
表情を一切変えずに、今日もこの一言を発する。
「朝からこっち見てんじゃねぇよ、ブス」
ピクリ、こめかみが震えた。
駄目よ、駄目。笑顔をキープして。
誰にも分け隔てなく注がれることが売りのこの笑顔。
それを今崩してはいけないのよ!
耐えるのよ、織川千春……!
「おはよう和泉くん。今日もいい天気ね」
耐えたあああああああ!