そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】

そして、雑誌を数冊渡され暫くそのまま放置された。徐々に不安になってくる。この時点で美容院に来たことを後悔し始めた私。


でも、髪に泥を付けたまま逃げ出すワケにもいかず、ひたすら耐えて待つこと数十分。再びシャンプーされ鏡の前の席に戻ると……まるで別人みたいな茶色い髪をした自分が鏡に映っていた。


「うひょ~!!」

「綺麗な色でしょ?新色なんですよ~。小林様は色白だから凄くお似合いですね」

「……はぁ」


それ以外の言葉が出ず、ドライヤーで髪を乾かしセットしてくれている間も呆然と鏡の中の自分を見つめていた。


「有難うございました~!」

「はい、どーも……」

「あ、それと、当店は来月オープン5周年なんですよ~。10%割引きにさせて頂きますので、またお越し下さいませ~」


美容師さんの元気一杯の声に見送られ美容院を出ると外はもう薄暗くなっていた。ユミちゃんが仕事に行く前に帰ってこの髪型を見てもらいたかったから足早に歩き出す。


でも、大通りから細い路地に入った所でイヤ~な感じがした。なんだか誰かに見張られているみたいな視線を感じる。


立ち止り後ろを振り向くが、私を見ているような人は居ない。


気のせいか……そう思い歩き出すと、またさっきと同じ視線を感じ気持ち悪くなって全速力で駆け出した。


何?なんなの?


人通りが少ない道に差し掛かり改めて後ろを確認してみる。が、追い掛けてくる人もなくホッと一安心。息を整え再び歩き出したんだけど……


コツコツコツ……


背後から突然聞こえてきた靴音に体がビクリと反応し動けなくなってしまった。徐々に近づいてくる足音。


その時、あのホームでの出来事が脳裏を過り恐怖が蘇ってくる。


いやぁ……怖い……怖いよ……


< 104 / 280 >

この作品をシェア

pagetop