そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
電車を降り改札を抜けると小雨がパラついていた。
「あぁ~ツイてないなぁ~」
止みそうにないので仕方なく速足で歩き出し、なんとか喫茶店まで後数十メートルという所まで来た時のことだった。後ろから誰かが走って来る足音が聞こえる。
傘を持ってない人が雨に濡れるのが嫌で走って来たんだと思い特に気にすることなく歩いていたら、突然後ろから体を突き飛ばされ雨で濡れた道路に倒れ込んでしまった。
慌てて顔を上げるとパーカーのフードを被った男が私の体に馬乗りになり、両手で首を力一杯絞めてきたんだ。
「うぐっ……」
なんなの?どうして?この人……誰?
助けを求めようと口を開けるが、喉を押さえられ苦しくて声が出ない……
それならと必死で手足をバタつかせ抵抗を試みるが、尚も執拗に首を絞められ徐々に意識が遠のいていく。
次第に体の力が抜け、抵抗することすら出来なくなっていた。
その時、微かに聞こえてきたのは、車のエンジン音。これが最後のチャンスだと思い声を絞り出す。
「たす……けて……」
でもその声は雨の音に掻き消され私の首を絞めている男にさえ聞こえていなかったかもしれない。
スーッと血の気が引いていくのが分かり、いよいよかと覚悟を決めた時、近くで車が止まる音がした。
「お前、何してるんだ!!」
その怒鳴り声と共に首に巻き付いていた手が離れ男の体が地面に転がる。
失いかけていた意識が戻り、喉の辺りで止まっていた血が一気に流れ出す。それと同時に閉じていた気道が急激に広がりむせて咳が止まらない。
私が咳き込んでいる横ではパーカーの男とスーツ姿の男性が激しく揉み合っている。
でも、逃げようとする男に男性の拳が炸裂すると、一瞬にして男はグッタリして動かなくなった。