そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
「ねぇ、バーバラ、この角曲がったっけ?」
猫にそんなこと聞いても無駄だと分かっていても聞かずにはいられない。いったい私は何処に居るんだろう?
慣れないヒールで1時間近く歩きまわったせいで靴ズレが出来てしまい一歩踏み出すのも辛い状態。
「あ~ん……もう限界~!」
弱音を吐く私に愛想を尽かしたのか、バーバラが肩から飛び降り歩道横の公園に向かってスタスタと歩き出した。
「ちょっとー、待って~」
こんなとこでバーバラにまで見捨てられたら私はどうすりゃいいの?
痛い足を引きずり後を追うと木陰のベンチの上にチョコンと座ったバーバラが、まるで私を呼んでるみたいに前足をクイクイと動かしている。
なるほど!ここで休めってことか……バーバラったら優しいじゃん。
なんて思いながらベンチに座り、少し離れた砂場で遊ぶ小さな子供達を眺め一息付いていると、どこからともなく黒猫が現れバーバラにちょっかいを出してきた。
相変わらず高飛車なバーバラはツンとすまして相手になろうとはしない。けど、黒猫の猛アピールにバーバラがまんざらでもない顔をしたんだ。
「ありゃりゃ……こんなとこ多摩雄のおっちゃんが見たら嫉妬してえらいことだ……」
そう独り言を言って笑ったけど、実は私も羨ましかったり……?
あぁ~……バーバラいいなぁ~私も陸さんとラブラブしたいよ~
唇を尖らせじゃれ合う二匹を横目で見つめていたら、突然後ろから声を掛けられた。
「そのシロちゃんは、お嬢さんの猫かい?」
見れば70代くらいのばあちゃんがアラレが入った袋を差し出しニコニコ笑ってる。
「良かったらどーぞ」
「あ、どうも……」
「このクロは私の猫なんですよー」
あ……
そう言って微笑んだ顔が島のばあちゃんと重なり、懐かしさで胸がギュッと締め付けられた。