そこから先は、甘くて妖しいでんじゃらすゾーン。【完】
ということで、目指せ東京!を合言葉に私の涙ぐましい努力が始まったんだ。
上京資金を貯める為、山で珍しい山菜を採り近所のおばちゃん連中に高額で売り付け、海では漁師のおじちゃん達に混じり網を引く。
お金は順調に貯まったが、苦労したのは標準語。今まで普通に喋ってきた言葉を直すのは思った以上に大変だった。しかし、それより難問だったのは、ばあちゃんに東京行きを認めてもらう事だった……
「あの~……ばあちゃん、話しがあるやけど……」
「なんや?」
「えっとー……私、東京に行こかなぁ~って思っとるんさー」
ばあちゃん、暫し無言……。そして10分後口を開いたばあちゃんが言った言葉は一言「あかん!」だった。
「なんでー?ええやん!行く行く!絶対、行くー」
「あかん!あかん!絶対、あかん!東京行くなら、鈴音と縁を切る!」
お互い全く引かず、その後ばあちゃんとは冷戦状態で家の中はどんよりムード。そんな生活が3ヶ月ほど続きいよいよその日が来た。
縁側で針仕事をしてるばあちゃんに「行ってくる……」そう声を掛けたけど、ばあちゃんは手を休めることなく振り向いてもくれなかった。
「ばあちゃん……」
黙々と針仕事を続けるばあちゃんの小さな背中を見てると、自分はなんて酷いことをしてるんだろう……と罪の意識に苛まれる。
年老いたばあちゃんを一人残して行くことに不安はあった。
でも……それでも私は東京に行きたかった。
ばあちゃん……我がままな孫で、ごめんな……。